●熱帯アジア域での風・雲・海が引き起こす地球環境変動の観測的研究


地球・惑星大気環境変動

 約50億年の太陽系の歴史の中で, 各惑星は結果的にそれぞれ全く異なる大気圏を作り, 維持してきました. 地球では, 海洋つまり水圏と, 酸素を生んだ生物圏との繋がりが極めて重要です. 最近重視されている地球環境問題も, ともすれば社会的・人為的なものとして捉えられがちですが, 悠久の歴史の中に地球惑星科学を基礎として位置づけることが重要なのです.

 そういう訳で, 当研究室では, 地球(および他惑星)の大気圏内で生じる様々の素過程を, 自分たちで観測しながら他の観測や理論と比較することによって研究しています. 例えば, 風の日変化・高度変化・経年変化, 雲の出来方や雨の降り方, 風や雨による大気中の諸物質の輸送や変化, などです. これらに使用するために当研究室が所有している中心設備としては,

などがあります.

大気・海洋相互作用

 大気圏と水圏(海洋)には様々の共通点がありますが(次頁参照), より動きやすい大気の運動つまり風は, 海水を吹き流して海流を作り, 一方, 熱容量の大きい海面の温度や蒸発する水蒸気は, 大気の構造や運動に大きな影響を与るというように, 相互作用しています.

 昨年起きたエルニーニョは, 観測史上最も早く始まりかつ最も強いもので, 全世界に様々の異常気象を引き起こしました. 赤道太平洋では, 普段は, 強い貿易風(偏東風)で表層の暖い海水は西側に集められて 強い積乱雲群と降雨を生む(東側では深層の冷水が湧上がる)筈なのが, エルニーニョの時はこれがくずれて積乱雲群は東に移り, さらに大気大循環や気圧配置も普段の年と大きく変わることになります. 当研究室で収集したデータから, そのような変動の様子も解析されつつあります.

インドネシア「海洋大陸」

 赤道域全体の1/8を占めるインドネシア列島は, 太平洋からインド洋へ抜ける海流のダムの役割を果たし, また前述のように普段は活発な積乱雲と降雨を生む. この雲対流はさらに上方への大気循環の回廊となり, 頂上部の低温で水分を全て凍らせて降水として地上に戻し, 宇宙空間への散逸を防いでいる. 同時に変動を波動の形で上層大気へ伝え, 遥か極域のオゾンホールの生成にも関与している. さらにここが氷期にインドシナ半島と繋がる陸橋となることによって, 生物の断続的な大移動と選択的進化にも寄与した.

 上記のような重要性にも関わらず, また古典的手段による観測はかなり以前から各地で行われていたにも関わらず, 様々の歴史的経緯によってこの地域の観測データの収集や, 先端的観測手段の投入は極めて遅れていた. 当研究室では, 京大およびインドネシア側と協同で, 国内気象資料のデータベース化, スマトラ島レーダーの設置と観測を行った他, 東大他と協同で航空機・気球を用いた観測を行った.