京都府下のある小学校6年生のクラスから,
京都大学超高層電波研究センター宛に寄せられた質問への回答です.
オゾンそのものの専門家ではない私ですが,
質問に含まれている地球大気の成立ちや,
オゾン層の存在する中層大気には強い興味を持っているつもりですので,
ここではそういう観点を中心に押し出して書いています.
もしこのページを読まれて感想等がおありでしたら,
どうか遠慮なく末尾のメイルアドレスまでお寄せ下さい.
高尾小学校6年生のみなさん, こんにちは. みなさんがたいへんたいせつな問題をいっしょうけんめい考えておられるのを知り, おじさんたちはたいへんうれしくなりました. なぜなら, おじさんたちも毎日, 朝から晩までみなさんと同じようにオゾンやそれと関係する地球の空気の問題を, いっしょうけんめい考えているところだからです.
オゾンのなぞは, 大きく分けて2つの問題にまとめることができます. 第一の問題は, 「オゾンを作ったり壊したりするしくみ」についてです. 第二の問題は, 「オゾンを吹き寄せたり散らしたりする風の動き」です. これらのそれぞれは, 実はみなさんがびっくりするくらいいろいろな問題と関わっており, 一人の研究者はもちろん, 一つの大学だけでは解ききれないほど複雑なのです.
おじさんたちは, 上記のうち第二の問題を中心に, 最新型の大きなレーダーを使って, 毎日研究を続けています. そのお話や, それからみなさんの質問のそれぞれにお答えする前に, まずは今の地球の空気にオゾンがなぜあるのかについて考えておきましょう. というのは, 生まれたときの地球にはオゾンも, そのもととなり, また別の意味で生物が行きていくのに必要な酸素も, まったくなかったからです.
\section*{空気中の酸素はいつどうやってできたか?}
わたしたちが住んでいる地球という星は, 今から45億年という遠い昔に生まれました. 最初はどろどろの溶岩のかたまりのような状態でしたが, 次第に冷えて固まってきて, そのあとは火山がいっぱいできて噴火する時代がきました. その噴火でいっぱい吹き出してきたのは, みなさんも理科でならった二酸化炭素(炭酸ガス), 水(水蒸気)そして窒素です.
このような状態は, 実は地球のとなりの星である金星や火星でも同じだったのですが, 金星は太陽に近すぎて暑すぎたため水は蒸発したままになり, 火星では今度は遠すぎて寒すぎたため水は完全に凍りついてしまいました. ですからこれらの星の空気は実は今でもほとんどが二酸化炭素ばっかりで, 火星人や金星人はもちろん生き物は全く生まれませんでした.
さてわたしたちの地球では, 暑すぎず寒すぎずで水は完全に蒸発したり凍りついたりしないで, 大部分が液体の水になって溜っていき, ついに海ができました. そしてこの海に二酸化炭素はどんどん解けていきました. この状態で空気は二酸化炭素と窒素になりました. また二酸化炭素が溶けた海の中では, 10億年近くの長い長い時間の間に, ちょうど理科の実験でやるようないろいろな反応が起きては消え, 起きては消え, しておりましたうちに, 今わたしたちが「たんぱく質」と呼んでいるものができました.
そうして今から35億年前, 「深い海の底」にあったたんぱく質が, まわりに同じたんぱく質を次々と生み出すようになりました. これが実はわたしたち人間, あらゆる動物や植物, そして目に見えないばいきんまで含めたあらゆる生命の先祖なのです.
いま深い海の底にと言いました. なぜでしょう. 実は太陽からはわたしたちが明るいとか暖かいとか感じる光だけでなく, 目に見えない「紫外線」というのが降り注いでいるのです. この紫外線はたんぱく質のかたまり(細胞ということばは習いましたか?) を破壊してしまいます. ですからこの紫外線がとどかない(たぶん光もとどかない)暗い海の底でしか, 最初の生命は生きられなかったのです.
さてそうやってできた最初の生命の中で, 今から数えて27億年くらい前までには, (褐色または)緑色をしたものは, 光を浴びると二酸化炭素を分解して酸素(と「でんぷん」)を作るようになりました. このふしぎな性質は緑色のもとである葉緑素のおかげです. こういう性質をもつものは, その後いろいろな種類に分かれて植物と呼ばれるものになりました. 最初の植物にもし心があったなら, それはとても勇敢だったはずです. なぜなら自分が死んでしまう紫外線の危険をものともせずに, ぎりぎりの所でわずかな光を浴びて酸素を作り, しかもそれをどんどん増やしていったからです.
\section*{オゾンはいつどうやってできたか?}
酸素というものは, 今のわたしたちやあらゆる生物が, 呼吸によって体内に取り込み, 体内でいろいろなもの(人間や動物にとっては食べもの)を変質させ (これは実は物が腐ったり, 金属がさびたりするのと同じで「酸化」と呼ばれます), それによって生命を保つのに必要な栄養や熱(エネルギーともいいます)に 変えていくという, なくてはならない性質をもっていることは知っておられると思います.
ところがこの酸素というものは, 実は同じくらい大切なもう一つの性質をもっています. 酸素は紫外線を浴びるといくつかの変化を経てオゾンに変わり, このオゾンに紫外線が浴びせられるとまた酸素に戻ります. 酸素の量が増えてくると, こういうことが次々と起こる結果, いつもオゾンができて紫外線はほぼ完全に吸収されてしまうことになるのです.
さて勇敢な植物の先祖たちのおかげで, 酸素はだんだんと増えていき, ついには海水に溶けきれなくなって(「飽和」といいます), 海面の上の空気の中に混じっていきました. そして空気の中に混じった酸素もどんどん増えて, ついに海面すぐ上の空気中にオゾンが作られ, そこで太陽からの紫外線は全部吸収され, 少なくとも海の中は全体が生命にとって安全な世界となったのです. これが今から少なくとも7億年くらい前のできごとです.
その結果, 海の中の生物は数も種類も爆発的に増えていきました. 自由に泳いでは植物を食べていた動物の中には, さらに小さな動物を食べるものが現われ, 大きさも大きく, からだの構造もだんだんと複雑で, しかもじょうぶなものが現われてきます. そうすると弱いものはだんだんと生存競争に負けて死に絶えていき, 次々とより強いものが現われていくといったことが繰り返されました (「進化」といいます).
もちろん植物も負けずに数と種類と大きさを増やしていきます. ですから酸素はそれ以前にもまして急激に増えていきます. すでに海水には溶けるだけ溶けていますから, 増えた酸素はそのまま空気中の酸素を増やしていきます. そうして以前なら海面あたりしかなかった酸素は, どんどん上の高度の空気にまで溶けていき, 酸素からオゾンが作られる場所も海面から離れて, どんどん高い所へと上がっていきました. オゾンがある所が空中のある高度幅に限られたことになりますから, まさに「オゾン層」の誕生と言えます.
\section*{オゾン層ができてからの地球}
こうして今から4億年くらい前には, 酸素は今と変わらない量になり, ` オゾン層はついに今みなさんが勉強された高度20 kmあたりから上に 達しました. 海面から上の世界でも紫外線にさらされる心配はなくなったわけです. しかしまだ動物の食べものになるようなものは何もない, 土と砂と石ころと岩だけの世界であったはずです. ですから最初に陸上で生活を始めたのは植物でした. 動物はまだみんな海の中にいて, そのころの最も強いやつは大型の魚でした. 陸上の植物がいっぱいに増えた後になって, ようやく動物の中に陸に上がるやつが出てきます. 最初のものは今のカエルたちのようなリョウセイ類と呼ばれるもので, 子供のころはずっと, おとなになってからでも生活のかなりの時間は水の中や水辺のしめっぽい所 にだけ生きていました.
しかしほどなく植物の作ったじゅうぶんすぎる酸素と, 植物そのもの(このころはまだシダ類と呼ばれるものでしたが)が じゅうぶんな食べものとなって, 動物は陸上でもどんどん種類や数や大きさを増やしていきました. さらに言いますとこの時代の植物は「化石」となって 世界の石炭や石油のもとにもなっています. そうして今から2億年前くらいに, 今のトカゲなどと同じハチュウ類のずっと大型のもの, みなさんよくごぞんじの「恐竜」の時代になったわけです.
恐竜がなぜ絶滅したかは実は今でもまだ完全にはわかっていません. 宇宙から何か(イン石とか小惑星とが言われます)が落ちてきて, 地球全体に大きな異変を起こしたというのはもっともらしく思えますが, そのころは恐竜に追われながら生きていた鳥類やホニュウ類 (犬やネコやサルの先祖でネズミみたいなものでした)が, そんな大異変をどうやって生きのびたのか, うまく説明できません. しかしそんな大異変でなくても, ちょっと寒くなったりして植物がかなり枯れたりすると, ずうたいのでかすぎる恐竜はお腹がすいて生きていけなくなると思われます. また恐竜たちがどんどん増えて, 植物が食べられたりしてどんどん減っていったため, 酸素の量が減り二酸化炭素が増えて, ついには恐竜たち動物は発展しにくくなったと考える人もいます.
実は恐竜がもっとも栄えていた時代は, 地球全体がかなり暖かな時代だったことがわかっています. 二酸化炭素は, みなさんが興味を持たれたオゾンの問題と同じくらい重要な (工業など人間の活動ともっと深く関係するという意味ではもっと重要な) 「地球温暖化」の原因となるものです. 最初の方で言いました金星などは, 太陽に近いだけでなく二酸化炭素があり過ぎるために, 地上は470度という金属でも溶けるくらいの暑さです. もし恐竜が二酸化炭素を増やし過ぎて絶滅したとしたら, わたしたちがそれと同じ失敗を繰り返すのはあまりにもばかげていますよね.
\section*{オゾン層の役割}
とにかく, 恐竜が死に絶えた後の地球は, 繰り返し気温が低い「氷河時代」と呼ばれる状態があり, その間をぬうようにして, まず花を咲かせる植物が発展して酸素をまた増やし, ついでホニュウ類の動物が発展してきました. 二本足で歩く新種のサルが現われたのは300万年くらい前, わたしたち人間の直接の祖先が現われたのは, (いまのところ)最後の氷河時代が終わった2万年くらい前のようです. 45億年の地球の歴史の中で, わたしたち人間が生きてきたのはたった何万分の一の時間にすぎないのです.
このようにこれまでの地球の歴史をふりかえってみると, オゾン層だけでなくあらゆる地球上の気候や環境が, 実にびみょうに保たれてきたことがおわかりになると思います. わたしたち人間がこの地球に生まれてこれたのは, 地球の気候や環境がむちゃくちゃに悪くはならなかったからこそです. 初めの方で言いましたように, 地球以外にわたしたち人間が移住できる星は宇宙にありません. わたしたちが地球の気候や環境を注意深く見つめ, 守っていくことは絶対に必要なことなのです.
これまでにわかったオゾン層の役割としては, 有害な紫外線から地上の生命を守っていることのほかに, もう一つあります. それは空の高いところ(高度50 kmくらい)をいつも暖めていることです. 目に見える太陽光線に照らされた地面が暖かいのと同様に, オゾン層のてっぺんの部分は目に見えない紫外線で暖められているのです. 地上の気候に赤道あたりの熱帯, 北極や南極あたりの寒帯があるように, また天気が暖かくなったり寒くなったりしながら変化しているように, オゾン層のてっぺんの部分の暖かみは空の高いところの気候や天気を決めています. そして空にはどこにも境界がありませんから, 空の高いところのようすは実は地上付近の気候や天気とも関係しているのです. ですからもしオゾン層がなくなりでもしたら, 地上の生物は紫外線にさらされるだけでなく, 気候や天気も全く変わってしまい, いずれにしても生きてはいけなくなることは確実です.
紫外線を吸収したり空を暖めたりしているのがオゾン層のてっぺんに限られて いることは, てっぺんにあるわずかなオゾン(全体の50分の1くらい)だけでじゅうぶんに 役割を果たしているということで, ほっと安心できそうに思えます. しかし地球の気候や環境のびみょうなところは, 一部がかわると次から次へと変化を生み出して, ついには全部が完全に変わってしまうという危険性をはらんでいるところです. 例えば氷河時代と今とで地球全体の平均気温は数度変わるかどうかと 言われていますが, この変化が生物の進化や絶滅に大きく影響したことはすでに 申し上げたとおりです.
人間は今やクーラーや暖房装置, いろいろな災害を防ぐ知恵と力を持ち, 後で話しますようにそれがオゾン層にも影響を与えるくらいに大きくなり過ぎた わけですが, 同時にそういう機械や技術がなくなると極めて弱い, おそらく地球上の生物のうちでも最も弱い種類ではないかと思います. 今年になってからの阪神大震災は, もちろんオゾン層とは何も関係のない地球内部に原因がある現象ですが, 人間が自然に対してどのくらい弱いか, 電気やガスや水道がなければ生きていくのがどのくらい困難かを, わたしたちに改めて教えてくれた貴重な教訓であったと言えます.
ところで, 以上のお話に出てきたオゾンは, 人間や生物にとってとっても良いものということばかりでした. しかし実はオゾンは, すぐそばにあるときは極めて有害で危険なものです. みなさんはもうあまり聞いたことがないと思いますが, みなさんのお父さんお母さんにたずねてみられればきっとみんな聞いたことが あることばに, 「光化学スモッグ」というのがあります. あれは実は車の排気ガスや工場から出る煙などが, 風の弱い状況で太陽の光に照らされてオゾンを生み出すものです. 光化学スモッグのときに運動場で遊んでいてオゾンを吸うと, 肺などに非常に悪い影響を与え, ひどい場合は息ができなくなってしまいます. 車のガソリンや, 工場の設備が改良されて今ではめったに聞かなくなりましたが, 少し以前までの大きな町では極めて大きな問題になっていました. 空には絶対になくてはならいが, 近くには絶対にあっては困る. これも自然のびみょうさだと思います.
光化学スモッグが, 排気ガスなどもとになる物質や光による変質のほかに, 風の弱さという条件があったことに注意しておいて下さい. これら二つが, このお話の一番最初に言いました二つの条件に対応します. 光化学スモッグは極めてせまい場所で, しかもオゾンができる現象ですが, 今言いましたような二つの条件があることは, 次に話す地球全体でオゾンがこわされる話でも同じです.
\section*{オゾンホールの発見}
オゾン層が高い空にあること, そしてそれが人間や生物が生きていく上でなくてはならないということは, 少なくとも今から60年以上前からわかっていました. それから40年ほどの間に工業などが急速に発展し, さきほど話しました光化学スモッグなどが話題になってきたころ, 高い空を超音速で飛ぶ飛行機などが空を汚したりしないかなどが検討され, その中でフロンガスというものがオゾン層をこわすということを 言い出したアメリカ人の学者がいました. しかしその当時(今から約20年前)は, まだ人間活動が地球全体に影響を与えるなどということはみんな考えません でしたから, オゾンをこわす説もあまり本気では信じられませんでした.
おじさんはみなさんの教科書を読んでいませんので正確にはわかりませんが, たぶんこのあたりのこと, フロンガスとは何か, なぜオゾンをこわすかなどについては, みなさんの教科書に書いてあると思います. ですからここで同じことを書くことはしません. その続きと思って聞いて下さい.
さてそのころには, 雲より下の空のようすは, 各地の気象台の観測結果をコンピューターで計算したり, 気象衛星の雲の写真が簡単に見られるようになったりで かなりわかってきていました(もちろん決して完全ではありません, その証拠に天気予報は今でもはずれることがあります). そこで, オゾンがこわれているかどうかなどとは全く考えないで, 雲よりも高い空をもっとよく調べようというつもりで, 今から10年ちょっと前に, 世界の研究者が協力して観測が始まりました. 日本でも, おじさんたちの先生にあたる人たちが大きなレーダーを作って, 風の変化をくわしく調べたりし始めました.
そしてそのような中で, 気象庁から南極の越冬隊として派遣された忠鉢(ちゅうばち)さんという人が, 月の光を利用して南極の冬(太陽がずっとのぼらないので昼がありません)にでも オゾンが観測できるようにした機械で, 南極でのオゾンの変化を1年じゅう連続して調べることに世界で初めて成功し, 10月ころ(南極では春です)にオゾンががたっと減ることを発見しました. この結果は帰国してからすぐにいくつかの会議で発表されましたが, 観測に使った機械も初めてのものであったりしたため, ごく一部の人だけが注目したくらいでしたが, 忠鉢さんは過去のデータもつなぎ会わせてどうも年々減っているらしいことにも 気がつきました.
それから少したってから, 今度はイギリスの南極観測隊の本部でこれまでの記録を調べていた人たちが, 忠鉢さんの発見は全く知らないで, イギリスの南極基地で毎年春に観測したオゾンが, 1980年ごろから年々減ってきているということを発見し, やはり国際的な会議で発表し, 今度はわりと多くの人が注目しました. アメリカのグループは, 気象衛星に積んだオゾン観測機械のデータのうち, これまで間違いだと思って捨てていた部分を入れて調べなおし, 「南極の春」のオゾンが「年々減っている」ことを確認しました. ここまで来て全世界の研究者がやっとこの事実を信じました. そして20年前のフロンガスによるオゾン破壊が, にわかに注目を集めだしました.
これがふつう「オゾンホール」と呼ばれているものの発見のいきさつです. 一つの現象を世界じゅうの研究者が正しいと認めるまでにはいろいろと あることが, おわかり頂けたでしょうか? オゾンホールについては, その後も観測が進められ, 減り方がだいたい1年おきに速まったりちょっと遅くなったりしながらも, やはり南極の春のオゾンが年々減っていることは確実になりました. またこの話がとてもウけましたので, 北極でも見つかったとか, 熱帯でもあったとかの発表が乱れ飛びました. しかし後になってこれらは, ごく狭い範囲で, しかも決まったときに起こるとは限らないことがわかりました (研究者によってはこれらを「ミニホール」と呼んでいます).
\section*{オゾンホールのなぞ}
さてオゾンホールの特徴のうち, 年々減っているということについては, 以前に提出されたフロンガスがどんどん増えてきた結果と考えると うまく説明できそうでした. 実際に飛行機で観測して, フロンガスの多いところで実際にオゾンが減っていることを確認したと 発表した研究者も現われました. しかしフロンガスが北半球の工業地帯で年じゅう放出されているのに, なぜ南極という限られた場所, そこの春という限られた季節でしかはっきりと現われないのかは, 説明できませんでした. つまりお話の最初に言いました二つの条件のうち, 一つ目のこわれ方だけで説明するのはだめだということになったわけです.
その後いろいろと研究が進んで, 現在では, 今言いました二つの条件のうちの二つ目, つまり風の変化が大きな影響を与えているらしいことまではわかりました.
そもそもオゾンは地球上のどこでたくさん作られるかというと, 紫外線を含め日がよくさすところ, つまり赤道に近い熱帯の上空です. 逆に冬の南極(北極も同じ)では日が全くさしませんから, オゾンはそこでは作れないはずです. ですから, もし上空に風が吹いて熱帯上空でできたオゾンを運んで来なければ, 南極の冬やその直後の春にオゾンがなくてもふしぎではない. 北極や1970年代以前の南極の春にオゾンがある(あった)のは, 風が運んできた結果であったということがわかりました. 実際に北半球の冬には強い風の流れ(ジェット気流)が南北にくねくねと 曲がること(蛇行)がすでにわかっていました. またその熱帯上空での曲がり方にだいたい1年おきに強弱があること, 風の吹き方にはいろいろな乱れがあることも知られていました. さらに南極大陸は南極点を中心にかなりまるい形をしていて, 風にはこの周囲に沿って曲がらずに吹くことが多いこともわかりました. ですから, フロンガスによるオゾン破壊だけで説明できなかった場所や季節の特徴や, たまにミニホールが生じることなどは, 風の吹き方を考えれば一応は説明できそうであるということにはなりました.
そのほか, オゾンの破壊を食い止めている物質もいくつか発見されました. 例えば地上の生物から発生する二酸化窒素は, フロンガスから生じたオゾンを壊す塩素を取り込んでしまう性質があります (生物が作ったオゾンを生物が守っているのは極めておもしろいと思いませんか?).
しかし逆にオゾン破壊を進める働きをするものも見つかりました. これは普通の雲よりずっと高い所に, 極めて低温($- 80^{\circ}$以下)の状態でだけ発生する雲で, この雲粒子の表面で, 先に言いました二酸化窒素と塩素が結びついたものが, またばらされてしまうのです. 北極域にはこのような低温域はなく, これも南極でしか生じない一つの理由と考えられています.
しかしそれではフロンガスによる破壊がどくらいきいているのか, 風の流れ方になぜ1年おきの強弱があるのか, オゾンにしろ風にしろ1970年代になって急に変化が現われたのはなぜか, などのなぞは, まだ完全に解かれたとは言えません. また日本の南側にあるインドネシア周辺の熱帯域では完全なデータが まだ得られてはおらず, とにかくいろいろな問題が残されていて, そういう意味でオゾンホールがなぜできるかについては, まだ完全にわかったとは言えない状況です. そしてこのあたりの風の細かい変化, インドネシアあたりでの観測こそが, 今おじさんたちがいっしょうけんめい取り組んでいることなのです.
\section*{フロンガスが簡単にやめられない理由}
自然の現象の研究には, これで完全にわかったということがなかなか言いきれません. あることがわかった(説明できた)と思ったら, また新たな問題が浮上してくるというわけです. こういう状況でありながら, 疑わしきは罰するという感じで, 先進の各国はフロンガスを使わないことにしようと決めました.
まあその決定そのものは, 科学的にみて(オゾン破壊の進行がひどいことにならないという保証もない という点で)まちがいではないことと言えるでしょう. それからこのフロンガスというものが, オゾン破壊だけでなく, 先に言いました二酸化炭素よりもずっと少ない量で地球温暖化を進行させる ことがわかったことも, このような取り決めをうながした大きな要因であったと思われます.
またオゾン破壊が, アメリカやヨーロッパの先進国に住む白人にとっては, 日本人など黄色人種や黒人などより, 皮膚ガンを発病させる可能性がずっと高いことも, 特に日本以外の先進国でフロンガス停止をす速く決断させた理由の一つでしょう. 温暖化はオゾン破壊よりも速く気候の変化につながる可能性が高く, また南極などの氷が解けて海水が増えれば, 例えばオランダなど海岸に面した先進諸国では大きな問題です.
しかしフロンガスがこれまで使われてきたのにもそれなりの理由があり, 少なくとも無害であり, 容易に生産や使用が可能であるというようなことです. このあたりもみなさんの教科書にどうやら詳しく書かれているようなので, くどくどとはお話ししません. 要するに, 先進国以外の今まさに発展しようとしている国の工業生産力を高める上で, フロンガスは極めてたいせつなものでもあるのです. 今まで勝手に使いほうだい使ってきてもうけてきた先進国に, やっと追いつこうかとしたとたんに使うなというのは, 確かに横暴に見えるにちがいありません. そのあたり, おじさんはこのごろインドネシアなどによく行っているので, よーくわかるつもりでいます.
もちろんおじさんたちのようなオゾン層に関係した研究とは別に, フロンガスに代わるべき物質を作る研究を熱心に進めている研究者たちもおられます. しかし今のところまだそれほどすばらしいものが作り出せていないようです.
そういうわけで, 45億年の地球の歴史からはじまった問題は, 世界各国の経済や政治にまでからんだやっかいな問題にもなってきたわけです. ただみなさんが生まれたころまで世界のあちこちであった戦争や敵対関係の多くが 解決し, 世界各国ができるだけ協調してやっていこうとしており, だからこそこれまで自国の発展や軍事拡張のためにあきらめてきた 環境や地球の問題を真剣に考えるふんいきがでてきたことに, おじさんは期待をかけています.
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みなさんもぜひ, 大きくなったらおじさんたちといっしょに, わたしたち人間だけでなくあらゆる生物にとってかけがえのない星, 地球の研究をしてみませんか? おじさんの今いるところには, 全国共同利用と言って, 京大だけでなく日本じゅう, 世界じゅうからいろんな形で研究者が集まっています. もし興味があったらぜひ一度遊びにきてみて下さい.
以下,
みなさんそれぞれの御質問に簡単に答えて行きます.
簡単すぎると思ったら,
どうか前の文章を読みなおしてみて下さい.
それでもわからないところ,
また新しく疑問に思ったところがあったら,
もう一度でも二度でもお手紙下さい.
部分的ならば大丈夫です.
心配せずにもっと勉強して下さい.
\end{quote}
太陽がどのようにしてエネルギーを生み出しているかは,
だいたい最近100年の科学の発展とともにわかってきました.
もっと詳しいことが知りたければまたお手紙下さい.
\end{quote}